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窓際の景色

書評、釣行記。

【書評】「IGPI流 経営分析のリアル・ノウハウ」(PHPビジネス新書刊、冨山和彦/経営共創基盤著)

 産業再生機構COOを経て、経営共創基盤代表の冨山和彦氏の最新刊である。経営分析本と云えば大学教授等の学者による損益計算書、貸借対照表、そしてキャッシュフロー計算書など財務諸表の読み方、その関連性を解説するだけのものが多いのだが、本書はカネボウ化粧品の再生など実務経験が豊富な氏ならではの具体性に富んだ実務書となっている。冒頭、鉄鋼メーカーの例を取り上げ、石炭や鉄鉱石を溶かす巨大装置産業である高炉メーカーとくず鉄を溶かしすぐさま出荷する電炉メーカーの事業モデルの比較において、前者は生産拡大による規模のメリットを受ける事が出来るが後者は回転率勝負でそのメリットは享受出来ないとする分析でメーカー、加工流通業の区分は象徴的である。経営分析とはいえナマの事業モデルを凝視しない事にはその実態は見抜けない。オレンジとミカンは表面的には差異が殆ど無い。
 また、研究開発費や設備投資などの共有コストの濃淡による規模型事業(共有コストが希釈される)と分散型事業(そもそも共有コストが薄い)区分の言及がコンビニエンスチェーン店における[密着の経済性]の重要性の解釈の礎となっている。世の中のビジネスの多くが規模だけの追求ではなく密度の重要性が不可欠である。
 そして、ネットワークの外部性についての分析では携帯電話の黎明期を例にとり、普及すればするほど利用者にとっての利便性が向上し、覇権を奪取するにはリスクをとってシェア獲得に全力を傾ける必要がある。ゼロ円携帯の意味も理解に容易であり、利用者のスイッチングコストを高める事がとにかく重要である。
 ルーティンに財務諸表分析を行うだけでは企業の本質に迫る事は困難である。単年度スパンで分析するのか5年スパンでするのか業界ごとに様々である。その業界でのポジション、成熟度を勘案し人間ドラマまでを含めた上での分析が必要である。