窓際の景色

書評、釣行記。

【書評】『「反原発」の不都合な真実』(新潮新書刊、藤沢数希著)

 欧米の研究機関で物理学博士号を修得し、帰国後は外資系金融機関に勤務する著者の第三作目となる本書。
3.11の東日本大震災以降数々のメディアにおいて反原発を論じる評論家、著名人の論説に異を唱える渾身の意欲作といえるだろう。
 著者自身のブログ(金融日記)や論壇プラットフォームAGORAでのエントリ同様、切れ味鋭い分析で読者を魅了する。
 それは、発電方法としては火力、水力より原子力が最も人命を犠牲にしない方法であるとする冒頭の論説に集約される。9.11同時多発テロ以降、アメリカ国内での移動手段として飛行機事故を恐れるあまり自動車で国内移動した人達が最初の一年間で1500名程アメリカ国内の路上で事故死しているという隠喩を提示し、化石燃料による発電と原子力発電の危険性を比較検証している。その際、各種研究機関の発電方法別単位エネルギー当たりの事故や公害者数推計をもとに1000倍程度の安全を立証しています。
 そして、地球温暖化に憂慮する各国の今後のエネルギー政策として、化石燃料消費の削減(CO2の削減)が不可欠であり、とりわけ化石燃料調達のほぼ100%を輸入に頼る日本にとっては安全保障の側面においても重要であるとしています。
 また、近年話題の電気自動車の普及は原子力発電とワンセットで無ければ普及インセンティブが働かないとしています。電気自動車の蓄電池充電のための電気がCO2排出を伴う化石燃料発電によるものであるならば環境問題に寄与するどころか本末転倒のものであるからです。
 著者の感情論に走る事が無く一環したデータ分析による論説は原発推進論者と映るでしょうが覚悟の上での上梓のようです。
清々しい。