窓際の景色

書評、釣行記。

【書評】「社長失格」(板倉雄一郎著、日経BP社刊)

 板倉雄一郎というアントレプレナーもハイパーネット社というインターネット企業がかつてあったことを今や誰も口にしないし、存在していた事さえ忘れ去られている。私も本書を手にするまで存在さえ知らなかった。 起業家精神に富み、次々と新たな発想を具現化するバイタリティはまさにベンチャー起業家そのものだ。しかし、その栄華と転落も時を経ず訪れる事となる。時はITバブル前夜。

 1990年代中期は都市銀行を始めとした金融機関が新たな投資先、投資案件を探し求めていた時代でもあった。インターネット分野で、新規性に富んだ市場開発を展開するハイパーネット社はまさにそんな投資先としてもお誂え向きのベンチャー企業だったのだろう。証券会社系のベンチャーキャピタルのJAFCO、住友銀行などは破格の投資を行うこととなる。ナスダック上場を見据えたアメリカでの開発の遅延による上場延期などを契機に、日本国内ので顧客獲得スピードの進捗の遅れも合間って、株主でもある金融機関から融資引き上げなどの兵糧攻めを受けることとなってしまう。金融機関の自己資本比率の増強も当局から強く求められていたタイミングとも重なる。結果はエンジェル投資家による救済くらいしか存続に残された策はなくなってしまう。結果と詳細は本書を参照いただきたいがそれは想像に難くないだろう。
 言い古されているが、ベンチャー事業にとってのキモは、いち早くスタートアップさせ業界のスタンダードを奪取すること。本書から滲み出る板倉雄一郎氏の存在の絶えられない軽さを私は良しとしないが、チャレンジする領域の成長過程の見極め、金融機関との緊密な関係、そして人心掌握力の重要性の欠如が致命傷になる典型例を自ら明示してくれたことは賞賛したい。また、ビルゲイツ孫正義成毛眞、古川亨、夏野剛氏など錚々たる登場人物の若かりし頃の勇姿が垣間見る事が出来たのも収穫だ。
 
                                                                                                                              kindleにて読了