窓際の景色

書評、釣行記。

【書評】「大阪府警暴力団担当刑事 「祝井十吾」の事件簿」(講談社刊、森功著)

 暴力団、芸能界、財界の切っても切れない相互扶助の関係を詳らかに晒す。

 同和と財界の癒着(「同和と銀行 三菱UFJ“汚れ役”の黒い回顧録」、講談社刊)、イトマン事件の暗部(「許永中 日本の闇を背負い続けた男」、講談社刊)など、元来、アンダーグラウンド社会に関する著書が多い著者なのだが、本書は週刊誌連載の書籍化と云う性質上、暴力団と芸能界・スポーツ界の蜜月関係に頁を割いている。

 本書は山口組三代目田岡一雄による港湾事業、芸能事業に捜査のメスを入れ経済活動からの閉め出し図った第一次頂上作戦以来、五代目渡辺芳則から六代目司忍政権過渡期に於けるゴタゴタを期に組織殲滅を目指す第二次頂上作戦の歴史、大阪府警とりわけ捜査四課の歴史でもある。

 世間を賑わした吉本興行のお家騒動、山口組五代目(渡辺芳則)&怪芸人中田カウスVS六代目ナンバー4(橋本弘文、極心連合会会長)&島田紳助の対立の記述は興味深い。人気商売だが浮き草家業のタレント業の性(サガ)とヤクザの性の利害が見事に一致する。

 ボクシング界も同様だ。手打ち興行ともなれば暴力団の協力無くしてはあり得ない。チケット販売が上手く行かない。捌くのは住吉会のボクシング担当である。三代目田岡一雄組長時代より関東の暴力団との協定により、表立って東には進出しない事になっている。ボクシング興行の仕切りが山口組では無く住吉会で在り続けているのはその名残であろう。

 本書全編を通じて、かつて大阪府警捜査四課捜査官であった祝井十吾(仮名)の述懐が効いている。有名人と暴力団の黒い交際に世間は興味津々である。またその事件検挙に血眼なのはヤクザのシノギを削る事、またヤクザの悪態を世に知らしめ世から閉め出す事にだと言う。警察組織とヤクザ組織の意地と意地のぶつかり合い、精神戦のチキンレースの歴史は今も続いている。